一昔前までは、日本の社会では終身雇用制度が当たり前でしたが、現在では、新卒で入社したとしても、入社した企業が定年まで存続するとは限らない時代を迎えました。また、IT技術の劇的な進歩により、作業の効率化や自動化がどんどんと進んでいく時代にもなり、多くの職種がこれから機械に奪われるのでは!?という、不安の声もあがるようになってきました。
そんな変化が激しい時代を迎えた今だからこそ、一度社会に出てからも、知識のアップデートや新しい技術を身に着けたいと、いま社会人の「学び直し」(リカレント教育)が注目されています。
実際に、社会人の約9割近くが学び直しに「興味がある」または「チャレンジしてみたい」という結果が出ているというアンケート調査もあり、政府も社会人の学び直しを積極的に推進しています。
しかし、そこに立ちはだかる問題のひとつに、「お金」の問題があります。
- 学び直しを検討しているけど、思っていたより費用が高い
- 質の高い教育を受けたいけど、受講料が高いことがネックになり、なかなか踏み出せない
- 受講料が高いことで、家族に反対されている
こんな悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、社会人の学び直しの強い味方、「教育訓練給付金制度」について、なるべく分かりやすく、ご紹介いたします。
受講料の最大70%が支給される大変ありがたい制度です。ぜひ、この制度のことを正しく知り、社会人の学び直し(リカレント教育)にお役立てください。
目次
教育訓練給付金制度とは?
教育訓練給付金制度とは、働く方の主体的な能力開発の取組みや、中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図る目的から、厚生労働大臣が指定した講座を受講し修了した人に対し、受講に伴い支払った費用の一部を支給する制度です。
この制度は雇用保険法における給付制度のひとつであるため、原則的には企業などに雇用され、一定期間以上、雇用保険に加入をしていることが条件となります。また現在離職中の方の場合でも、本制度が利用できる可能性があります。(離職中の方の支給条件は、詳しくは後述いたします)
つまり、もう少し分かりやすい言葉で簡単に説明すると、雇用保険に一定期間以上加入している労働者であれば、
- 資格試験を取得するために予備校に通う費用
- 通信教育で資格試験を取得するために必要な費用
- 英語を学ぶために英会話スクールに通う費用
- 大学等で行われる社会人向け講座を受講するのにかかる費用
などの、受講にかかる費用の一部が、支給されるという制度です!
もちろん、厚生労働大臣が指定する講座でないと教育訓練給付金制度は適用はできませんが、2018年12月現在、通学・通信・eラーニングあわせ、2873講座も指定されているので、きっとあなたの学びたい分野が見つかるはずです。
また、教育訓練給付金制度は、教育ローンや奨学金などとは違い、返済義務のない給付制度です。
一定の条件をクリアされていれば、ハローワークから受講料の一部(最大70%)が支給されるという、大変ありがたい制度です。
教育訓練給付金制度の種類と支給条件・支給時期
教育訓練給付金制度は、大きく分けて以下の2種類があります。
- 一般教育訓練給付金
- 専門実践教育訓練給付金
では、具体的にどのように違いがあるのか、説明していきましょう。
一般教育訓練給付金
一般教育給付金の対象となる講座は、英会話やパソコンスクール、簿記検定などのスクールのほか、通信教育で学ぶ講座など、比較的手軽に受講できるものも数多くあり、幅広い種類があります。
各講座を受講後、受講に関して支払った費用の20%(上限10万円)が支給されます。(ただし20%を超える額が4000円を超えること。4000円未満は支給されません)
支給条件
受講開始日において、雇用保険の被保険者であった期間が通算3年以上(初めて支給を受ける場合は通算1年以上)あることが必要です。離職している場合は、離職日の翌日から受講開始日までの期間が1年以内である必要があります。
(妊娠・出産等の事情がある場合は別途手続き後、最大20年以内まで延長可)
注意点
過去に一般教育給付金の支給を受けたことがある方は、前回の受講開始日から通算3年以上、雇用保険の被保険者である期間が必要です。
支給時期・支給手続き
講座の受講修了日の翌日から起算して1か月以内に、申請者本人の住所を管轄するハローワークにて申請手続きが必要です。
手続きには、教育機関から発行されます「教育訓練修了証明書」や、受講の際にかかった受講料・入学金などの「領収書」などが必要になります。
ハローワークで手続き後、約1週間ほどで申請者名義の銀行口座へ、受講料の20%(上限10万円)が振り込まれます。
詳しい手続きについては、ハローワークが作成しているこちらの資料をご参照ください。
専門実践教育訓練給付金
専門実践教育訓練給付金の対象となる講座は、専門性が高く長期間にわたる職業訓練を対象とした講座が多く、業務独占資格(看護師や歯科衛生士、美容師等)や名称独占資格(栄養士や調理師、介護福祉士等)の取得を目指す講座や、大学院でのMBA取得コース等が上げられます。
また近年では、大学等で社会人の学び直しを対象とした「職業実践力育成プログラム(BPプログラム)」(120時間以上の受講で履修証明書を発行するプログラム)というものも開設され、こちらの講座を受講する場合も、多くの講座で専門実践教育訓練給付金の対象となっています。
各講座を受講後、受講に関して支払った費用の最大70%が支給されます。
ただし、支給額の上限は、下記のようになります。
- 講座を受講中は50%の支給
(年間上限40万円まで/最大3年まで) - 講座修了日の翌日から起算して1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は追加で20%の支給
(すでに50%部分の支払い済み額と合わせ、訓練期間1年までは上限56万円まで、訓練期間2年までは上限112万まで)
支給条件
受講開始日において、雇用保険の被保険者であった期間が通算3年以上(初めて支給を受ける場合は通算2年以上)あることが必要です。離職している場合は、離職日の翌日から受講開始日までの期間が1年以内である必要があります。
(妊娠・出産等の事情がある場合は別途手続き後、最大20年以内まで延長可)
また、受講開始日1か月前までに、以下の手続きをすべて行う必要があります。
- ハローワークにて訓練対応のキャリアコンサルタントによる「訓練前キャリアコンサルティング」を受け、受講の目的やその後の就業目標などに関するキャリアコンサルティングを受け、「ジョブ・カード」を作成する
- 「教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票」(ハローワークで入手可能な書類)と「ジョブ・カード」をハローワークへ提出
※詳しくは、ハローワークが作成しているこちらの資料をご参照ください。
注意点
過去に専門実践教育訓練給付金の支給を受けたことがある方は、前回の受講開始日から通算3年以上、雇用保険の被保険者である期間が必要です。
また、10年の間に複数回専門実践教育訓練を受講する場合は、最初に受給する講座の受講開始日を起点として、10年を経過するまでの間に受講開始した専門実践教育訓練の教育訓練給付金の合計額は、168万円が限度となります。
支給時期・支給手続き
<受講期間中>
講座の受講期間中、6か月ごとに支給申請を行い、教育訓練中から支給の手続きが必要です。6ヶ月間が終わった翌日から1か月以内が支給申請期間となり、申請者本人の住所を管轄するハローワークにて手続きが必要です。
手続きには、教育機関から発行されます「教育訓練給付金支給申請書」や「受講証明書」、受講の際にかかった受講料・入学金などの「領収書」などが必要となります。
ハローワークで手続き後、約1週間ほどで申請者名義の銀行口座へ振り込まれます。
<受講修了後>
専門実践教育訓練の受講が修了したら、一般教育訓練給付金の手続きと同様、講座の受講修了日の翌日から起算して1か月以内にハローワークにて申請手続きが必要です。
手続きには、上記の受講期間中に必要な書類の他、教育機関から発行されます「専門実践教育訓練修了証明書」などが必要になります。
また、受講終了日の翌日から起算して1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は、追加で20%の支給が受けられ、最大70%の受講費用が給付されます。
ただし、支給額の上限は、下記のようになります。
- 講座を受講中は50%の支給
(年間上限40万円まで/最大3年まで) - 講座修了日の翌日から起算して1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は追加で20%の支給
(すでに50%部分の支払い済み額と合わせ、訓練期間1年までは上限56万円まで、訓練期間2年までは上限112万まで)
少しややこしいため、簡単な例と下記図を使ってご説明します。
(例)訓練期間2年間、入学料10万円、6か月ごとの受講料が40万円の場合
※参考 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークリーフレットより。
詳しい手続き・詳細については、ハローワークが作成しているこちらの資料をご参照ください。
講座受講中に失業状態の場合は、さらに教育訓練支援給付金が支給
専門実践教育訓練給付金を受給する人のみの対象になりますが、下記の条件を満たした方が失業状態の場合、教育訓練支援給付金が支給されます。
この制度は、離職中の方の受講をさらに支援するために、失業給付で計算された基本手当の日額の80%に相当する額が、受講中給付されるというものです。(※平成34年3月31日までの時限措置)
支給条件
- 専門実践教育訓練を初めて受講する方
- 専門実践教育訓練給付金を受給する資格を有する方
- 受給資格の確認時、すでに離職中であること。
また、その後短期雇用特例被保険者または日雇労働被保険者になっていないこと。 - 雇用保険の一般被保険者でなくなってから(離職後)1年以内に専門実践教育訓練を開始する方
(妊娠・出産等の事情がある場合は別途手続き後、最大4年以内に受講開始日があること。ただし、受講開始日が平成34年3月31日までであること) - 専門実践教育訓練の受講開始時に45歳未満であること
- 受講する専門実践教育訓練は昼間の通学生に限り、通信制または夜間制ではないこと
- 専門実践教育訓練を修了する見込みがあること
- これまでに教育訓練給付金を受けたことがないこと(平成26年10月1日前に受けたことがある場合は例外あり)
- 会社役員、自治体の長に就任していないこと
離職中の学費・生活費を手厚くサポート
上記の条件を満たす場合、例えば失業給付の基本日額が6000円の場合は、その80%に相当する額の約4800円/日が、受講期間中支給されます。仮に1年間(日数ベースで365日期間)の専門実践教育訓練を受講した場合、上述した専門実践教育訓練給付金(最大受講料の70%支給の給付金)とは別に、なんと4800円×365日=175万2千円もの教育訓練支援給付金が受給できることになります。
なお、土日祝や学校の長期休暇にあたる期間など、元々授業が設定されていない日であっても、講座の修了日までの全期間中は教育訓練支援給付金の受給を受けられます。
受給できる期間は最大2年間までの講座となり(資格取得のための講座の場合は最大3年間まで)、こちらも教育ローンや奨学金などとは異なり、返済義務はありません。
失業中は給与所得がない分、生活費がただでさえ苦しくなるものです。
このため、教育訓練支援給付金という制度は、失業中の生活費を支えてくれる本当にありがたい制度と言えるでしょう。
また、前述した専門実践教育訓練給付金(受講料の最大70%が給付される制度)も、もちろん受給できますので、離職中の学び直しも、国がしっかりサポートしてくれます。
就業しながらの学び直しではなく、ある程度腰を据えて、新たなキャリアを築きたいと考えている方、高度なスキルや技術を習得されたいと考えている方にとっては、新たな一歩が踏み出しやすくなったと言えるのではないでしょうか。
注意点
ただし、注意点も複数ありますので、教育訓練支援給付金の受給を希望されている方は、下記の注意点もしっかり確認をしましょう。
- 雇用保険の失業給付を受けることができる期間中は、実際に受給をしているかどうかに関わらず、失業給付の基本手当が受け取れる期間であることから、教育訓練支援給付金は支給されません。また、基本手当の待期期間、給付制限の期間も教育訓練支援給付金は支給されません。
- 失業給付受給の際の「失業認定」と同様で、原則として2か月に1回、指定された日にハローワークに来所の上、「失業状態」にあるかの認定を受ける必要があります。
- 原則欠席をした日は、教育訓練支援給付金は支給されません。
- 欠席が多く、ある2か月間の出席率が8割未満になった場合は、以降一切の教育訓練支援給付金は支給されません。
- 講座を辞めた場合や、成績不良、休学等により、講座の修了が見込めなくなった時点より、教育訓練支援給付金は支給されません。
教育訓練給付制度についてのまとめ
社会人の学び直しは、変化の激しい時代を迎えた今、とても注目されています。
政府も国をあげて社会人の学び直しを積極的に応援してくれていますので、本記事でご紹介した教育訓練給付制度をうまく活用し、あなたのこれからのキャリア形成にお役立てください。
なお、ご紹介した各種の教育訓練給付制度の利用を検討されている場合は、必ず最寄りのハローワークにて、ご自身が支給条件に当てはまるかどうか必ずご確認ください。
また教育訓練給付制度は、講座を修了しないと給付されません。このため、受講希望をする講座の修了要件も必ず事前に確認するようにしましょう。
本記事が、学び直しを検討されている方のお役に立つことができれば、幸いです。
この記事を書いた人 Kanako 大手企業からベンチャー企業まで3社を経験。退職を機に明治大学のスマートキャリアプログラムを受講し、学び直しの重要性を体感。その後、当サイトの企画・運営に携わる。 |