日本女子大学、関西学院大学、明治大学、福岡女子大学、京都女子大学、京都光華女子大学は、女性のためのリカレント教育課程を運営する 大学です。この6大学が相互に連携をとりながら女性のリカレント教育の推進を図るため、「女性のためのリカレント教育推進協議会」を発足することとなり、その発足シンポジウムが日本女子大学にて開催されました。
2018年度は政府が女性の社会参加をさらに促すために、リカレント教育に力を入れることを宣言したことから、リカレント元年と呼ばれましたが、まだまだリカレント教育が認知されていないのが現実です。経団連・文部科学省・厚生労働省のご担当者様のリカレント教育に関する講演をはじめ、「女性のためのリカレント教育推進協議会」参加大学の各教授達が、リカレント教育の課題や今後の展望について、ディスカッション形式で語り合いました。
目次
イベント概要
日時 | 2019年12月05日13時20分~16時30分 |
---|---|
場所 | 日本女子大学目白キャンパス |
開催内容 | 「女性のためのリカレント教育推進協議会」発足シンポジウム |
テーマ | 女性のためのリカレント教育の社会的役割 ー日本社会の持続的な発展のためにー |
参加大学 | 日本女子大学、関西学院大学、明治大学、福岡女子大学、京都女子大学、京都光華女子大学 |
登壇者
※敬称略
日本経済団体連合会 常務理事 井上隆 |
|
文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官 西山 崇志 |
|
人材開発統括官付 人材開発政策担当参事官 相本 浩志 |
|
日本女子大学 リカレント教育課程 生涯学習センター所長 坂本 清恵 |
|
関西学院大学 ハッピーキャリアプログラム 女性活躍推進研究センター長 大内 章子 |
|
明治大学 女性のためのスマートキャリアプログラム プログラムコーディネータ 小川 智由 |
|
福岡女子大学 女性のためのウェルカムバック支援プログラム 副学長 野依 智子 |
|
京都女子大学 リカレント教育課程 特命副学長・地域連携研究センター長 竹安 栄子 |
|
社会情報大学院大学(実務家教員事業COEプロジェクト)学監・研究科長 川山 竜二 |
イベントレポート・前半
シンポジウムの前半は、経団連・文科省・厚労省の各ご担当者様からリカレント教育に関する講演が行われました。
講演1:経団連 井上隆氏
日本経済団体連合会、常務理事の井上隆氏は、Society 5.0(ソサエティ5.0)の社会を迎えるにあたり、社会人のリカレント教育の必要性ならびにリカレント教育の拡充と整備の必要性を講演でお話されました。
リカレント教育に関する経団連の考え方
Society 5.0社会と長寿化の到来により、れまでの社会や産業構造が大きく変化する時代に突入しています。このため、求められる人材像や企業の形態が刻々と変化していくなか、こうした変化に対応するには、生涯を通じて求められるスキルを学び続けることが重要であり、社会人になった人々が必要な時に学び直しが出来るよう、リカレント教育機会の拡充が必要である、と語られました。
ソサエティー5.0(Society 5.0)は、日本が提唱する未来社会のコンセプトのことを言い、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)といった人類がこれまで歩んできた社会に次ぐ第5の新たな社会を、デジタル革新、イノベーションを最大限活用して実現するという意味で名付けられました。
リカレント教育の拡充を目指す上での課題
リカレント教育の拡充を目指す上での課題としては、社会人のリカレント教育ニーズが明らかになっていないということ、企業で働く人が大学でリカレント教育を受けやすい環境が未整備であるということ、リカレント教育の成果が企業側に認知されていないということが挙げられました。このため、社会人リカレント教育が強く求められている分野の整理をはじめ、社会人が学びやすい環境整備の検討、リカレント教育修了者の企業における積極的活用と適切な処遇のあり方を検討するなどが必要だということです。
講演2:文部科学省 西山崇志氏
続いて、文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官 西山 崇志氏は、リカレント教育推進には、創造する未来社会からのバックキャストで取り組みを実施する必要があるという、「バックキャストによる大学教育の必要性」についてお話をされました。
未来を予測する際、目標となるような状態を想定し、そこを起点に現在を振り返って今何をすべきかを考える方法のことを言います。
リカレント教育から見る今後の大学
人生100年時代が到来し、大学は今までの若者に向けた場ではなく、一度社会に出てからも、誰もが、いつでも、高度で専門的かつ実践的な学びを享受できる場へと進化していく必要があるということ、その進化に必要なのはリカレント教育であり、リカレント教育を推進するにあたり、創造する未来社会からのバックキャストで取り組みを具体化する必要があること、またイノベーションを生み出すには、一定分野の知を継続して深堀りする「知の深化」に加えて、既存の認知の範囲を超えて、遠く離れた知を幅広く探す「知の探索」も組み合わせていくことを期待している、とお話をされていました。
講演3:厚生労働省 相本浩志氏
最後に、厚生労働省 人材開発統括官付 人材開発政策担当参事官 相本浩志氏は、女性のリカレント教育への期待と厚生労働省の取り組みについて、お話をされました。
女性の再就職・復職を阻む要因
出産・育児等を機に離職した女性は、「仕事についていけるか」「自分のキャリアプランなど、将来が見えない」と再就職・復職に対し不安を感じていたり、また再就職の際にキャリアや自分の能力を活かすことについて、多くの女性たちが「難しい」と思っていることが調査の結果わかったそうです。
厚労省におけるリカレント教育の充実等に関する取組
厚生労働省では、人生100年時代を見据え、誰もが、いくつになっても、ライフスタイルに応じたキャリア選択を行い、新たなステージで求められる能力・スキルを身に付けることのできる環境を整備し、職業能力の開発・向上を支援されているそうです。
具体的には、定期的にキャリアコンサルティングを受ける仕組みを推進させたり、リカレント教育機会の拡充のため、教育訓練給付金の拡充や、転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行の確立に向けて、経済界に働きかけを行っている、とお話をされていました。
イベントレポート・後半
後半は、参加大学の各教授より、開講されているリカレント講座のご紹介と、パネルディスカッションが行われました。
参加大学の各リカレント講座の紹介
日本女子大学 リカレント教育課程
概要 |
|
---|---|
内容 | ブランクがある女性は文部科学省の設定している科目履修時間では足りないと実感したことから、上記のような科目履修の時間を設定されました。また再教育と再就職を一本化として考えられており、キャリアマネジメントの授業や企業インターンシップ、合同企業説明会などの開催等により、受講生のほとんどが再就職を果たされているとのご説明でした。 |
関西学院大学 ハッピーキャリアプログラム
概要 |
|
---|---|
内容 | 関西学院大学はビジネススクール(大学院)でリカレント教育を行ってきており、25年の歴史があります。本プログラムでは、徹底的なケーススタディ、職場実践の場を作る問題解決のスキルを着実に身に着け、最新のビジネススキルを教え考える力を身に付けられます。また、質の高い人材を作るため企業とのタイアップを実施、また近年は新たな取り組みとして、オンライン受講が出来るよう、他大学と連携を始めているそうです。 |
明治大学 女性のためのスマートキャリアプログラム
概要 |
|
---|---|
内容 | 明治大学では、社会人向け公開講座の「リバティアカデミー」が20周年を迎え、本プログラムはこの社会人講座と連携をしています。受講できる科目については、リバティアカデミーの人気講座や、商学部のゼミを参考としたり、プログラム修了後ビジネススクールへの進学等も視野に入れ、ビジネススクールの教授等の意見も取り入れて科目を設定しているそうです。 また、バックグラウンドが様々で多才な受講生が多く、プログラム修了後も受講生同士が深くつながっていることは予想以上の成果だということです。 |
福岡女子大学 社会人女性向けの3つのプログラム
概要 |
|
---|---|
内容 | 福岡女子大学では、現在上記の3つのプログラムを開講しており、仕事復帰・再就職を目指す女性からトップリーダー(部長職以上)の女性まで、幅広い女性に対応できるプログラムを用意されています。「社会人女性学び直しプログラム」では中間管理職の育成をメインに2014年からスタートし、企業からの派遣で受講をするスタイルが定着し始めているそうです。また「仕事復帰・再就職支援プログラム」では60時間の有給インターンシップを取り入れるなど、新たな取り組みも展開されています。 |
京都女子大学 リカレント教育課程
概要 |
|
---|---|
内容 | 京都女子大学では、2018年からリカレント教育課程をスタートさせており、今年で2年目です。初年度から就職率85%を達成したことから、厚労省の教育訓練プログラム開発事業の受託を受け、2019年から教育訓練給付金の対象講座となっています。来年度からはeラーニングを導入した講座内容を予定しているとのことです。 |
パネルディスカッション
シンポジウムの最後には、参加大学の教授達による、リカレント教育の意義・課題・今後の展望などについて、ディスカッション形式で語り合われました。
リカレント教育への期待について
時間とお金をかけて学びに来る方の努力を認めていただき、リカレント教育の実績を受け入れて門戸を開いて欲しいですね。
我々大学としては、そのような実績を受け入れるという世論を作り上げていきたいです。
受講生の変化について
受講する層は時期により変化しますが、共通することは、どの受講生もものすごく一生懸命なことです。色々と多様化していきますが、考える力を身につけ、理論と実践の往復が大切だと考えます。
また非正規社員の方が、自分の10年後を考えて、学び直しをして次は正規社員になる、という人が3割くらいに増えてきました。学び直すにあたって離職することになるので、これからは離職しなくても学び直せるような方法を模索していく時期になっていると思います。
e-ラーニングでのリカレント教育について
リカレント教育については多くの大学が興味を持ち、首都圏や関西圏以外の大学からたくさん問い合わせをいただきました。私もアイデアを出すなどの協力をしましたが、残念ながらリカレント教育が実現した大学はほとんどありませんでした。
問題点としては、受講生が集まらない、教員が確保できないという、地方大学単独では開講できないという現状です。オンラインであれば、それらを解消してその地域の女性が学べるのではと思い、オンライン講座をスタートしました。
大学でのリカレント教育に求められる多様化・多様性について
仕事に就くということも、経済的な事だけではなく、家庭に入ったけれど別の形で社会に繋がりたいというニーズや、仕事を通じて社会に貢献したいと考えている方が多いと感じています。同じ価値観の人との繋がりやネットワークを求めるという受講動機に関して、大学側が介入できるのは強みだと思います。
実務家教員養成の課題や苦労について
実務家教員的なスキルとしては、自分のキャリアの棚卸をしっかりして、第三者に伝えていくことがとても重要です。今後はAIにとって代わられると言いますが、AIにインプットする知識は人間が作り出さないといけません。自身の経験を言語化することが重要ですし、そこが一番難しいところです。
リカレント教育の経済的負担について(大学側・受講生側)
大学はギリギリでリカレント講座を開講しているので、是非リカレントに賛同して、協力してくださる機関があると良いと思っています。
また1年間のプログラムを3つのモジュールに分け、1モジュール5万円としています。1年間ですべて受講できずに何らかの理由で中断しても、次年度もそれを受講できるようにして、受講生の都合に合わせて受講ができるよう工夫をしています。